旋回と跳躍と

フィギュアスケートに関してあれこれ思い巡らせたことの記録です。過去に出したものもまとめているため、時系列は歪んでいます。

[22]Boléro:origine et magie ③

スケートの快楽に目覚め、駆け巡るムーブス・オン・ザ・フィールド。

  

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(構成【16】Ⅸa-Ⅸb)

Aメロの主題と応答で、位置を変えて同じ動きを反復する。

ピンクが主題(a)、青緑が応答(b) です。

すべて繰り返しではなく、はじめと終わりが少しアレンジされています。

 

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ステップの1つ1つの動きを落とした図は手描きでは早くに作っていたのですが・・・

ソフトで入力するとき、繰り返しならaをコピーして回転させるだけでbができる!と期待したのに

aの図も正確なわけではないしそう簡単にはいきませんでした(笑)

なのでbのトレースは概略ラインのままです。

ぜんぶ細切れにするより、サーペンタインステップの軌道全体を意識したい!のでこれでよしとします。

 

aはスリーターンで始まり、⑤イーグルのあと⑥クロスと⑦イーグルが入ります。

bはスリーターンはなく①ジャンプから始まり、

⑤イーグルのあとステップ踏んでから⑥の螺旋を描きます。

ここは主題・応答のセットは繰り返さず、1回で次のBメロへ進みます。

   

 

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 (構成【17】9a-9b)

Bメロでは、ダッシュしたり中央でストップしたりバァンしたり、

ステップとしては尋常でない動きで氷上を駆け回る。

 

Aメロは180度回転させた軌道なので、対称(シンメトリー)ではないけど

反復を明確に意識したコレオになっている。

対し、Bメロは非対称であり、異変を起こす。

音楽構成を象徴するようなステップです。

[22]Boléro:origine et magie ②

ジャンプ簡易図。

2回転・3回転と、クライマックスのバレエジャンプをピックアップしました。

略図なので、誇張したイメージで描いています。

 

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暗く静かなコンテンポラリーから始まるプログラムなので、

観ているほうも緊張感で身体が強張り、視線が演者に固定されます。

そこで徐々に盛り上がってきて中央で跳ぶ3Tは、プログラムを一気に上方向に拡散させます。

映像は暗くて位置が確認しづらいのですが、

あとで跳ぶ3Sと3Lzとあわせて縦一直線に配置されてるかと思います。

(残りの公演で確認できたらここは編集します)

 

3Tを出て華やかな足踏みのようなステップをしてから、2Aシークエンス。

初見では3つ跳んで三角形なのだろうと単純にとらえていたのですが、

意識して見たら1つめと3つめの2Aはけっこう近かったです。

トレースには落としづらいので省きましたが、つなぎでとても凝った動きをしていて、

三角形というより装飾的な円を描いてるようです。

希望を込めて3Tから広がる螺旋にしてみました。

 

緑の四角形がクライマックスのバレエジャンプです。

2Aシークエンスもバレエジャンプも、ロングサイドぎりぎりの軌道で

リンクをめいっぱい使って図形を描いています。

 

[22]Boléro:origine et magie ①

凍てつき静まり返った湖面に現れて

氷の硬さを確かめておもむろに始めるコンパルソリー。

やがて旋回し、跳躍し、滑りから踊りへ熱を帯びていく。

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トレースは呪術でもかけていそうな対称性図形です。

 

詳細を見るのでトレースを分割します。

 

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(構成【0】Ⅰa-Ⅰb)

はじめはLFOブラケット・RBIブラケットで8サークル(黄緑のライン)。

中央へ戻ると立ち止まって右脚でS字を描くような動きをします(深緑のライン)。

 

次はリンク縦に8の字を2回(黄色のライン)。

LFOでスイングロール、チェンジエッジしてLFI、足を踏みかえて

RFOでスイングロール、チェンジエッジしてRFIで中央へ戻る。

LFIで反対側の8の字へ出て、チェンジエッジしてLFOでクロスを入れ、

RFIでスイングロール、チェンジエッジしてRFO。対称的な動きです。

中央へ戻ると両腕を下に伸ばし、足踏みしながら回って、手を裏表しながら全身で律動する。

この縦に弾む律動はベジャールボレロが連想されます。

 

そして、氷に慣れてきた男の動きは一気に複雑になります。

 

 

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(構成【1】Ⅱa-Ⅱb )

RFIブラケットから垂直跳び、Lツイズル、ベスティスクワットイーグル、

LFOループ、RFIスリー、両足ひょうたんからLBIスリー、

Rツイズル、RFIブラケット、左トゥでRBOピボット、LFアラベスクで中央へ。

2回目はLFIから逆足で対称に繰り返します。

中央へ戻ってくると、また手を裏表させる動きをしますが

今度は腕を上に曲げて、片足ターンで6弁の花を描くように回ります。

 

  *  ∞  *  ∞  *  ∞  *  ∞  * 

8サークルはフィギュアスケートの基礎練習を象徴するような軌跡ですが、

無限大(∞)と同じ形であり、メビウスの輪とみなすこともできる深遠な図形。

私はブラケットのターンの軌跡が葉先のようで、双葉を連想しました。

双葉から四つ葉へ、根を張り枝分かれして蔓を巻き、花を咲かせるイメージ。

植物も幾何学模様のモチーフですから。

 

初見でも垂直跳びやイーグルは繰り返しているなと思いましたが、

まったく対称に、しかも足をきれいに左右逆でなぞっているのに気づいたときは

技術とこだわりの秀逸さに、打たれるような感動を覚えました。

対称性の美しさを基本から追求したような振付、ほんとうにすばらしいです。

 

 

[22]Boléro:origine et magie (楽句構成)

ボレロは、楽句の対称的な反復が特徴で、曲全体が壮大なクレシェンドとなっています。

Aメロ(メジャー)主題→応答、

Bメロ(マイナー)対主題→対応答、という構成が基本です。

 

約15分におよぶ原曲の構成と、町田さんの編曲を解析してみました。

使われたのは上下の四角い黒枠の部分のようです。

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・楽器編成は ボレロ (ラヴェル) - Wikipedia を参照 

ボレロを「平らになったフーガ」として0から18の楽句に分解する構造は、

 レヴィ・ストロース神話論理Ⅳ-2裸の人』(みすず書房、訳・吉田禎吾ほか)を参照

 

 

原曲ではAメロ(メジャー、左のピンクの部分)と、

Bメロ(マイナー、右の青緑の部分)がそれぞれ2回ずつ繰り返され、

最後だけ集約するように1回ずつ演奏され、終結へ向かいます。

編曲では、1回目のBメロは繰り返しがありません。そして思い切って中盤をとばしています。

  

クレシェンドを演奏するときに私が意識しているのは、音量をすぐに上げないこと。

たとえば4拍子の1小節にかかるクレシェンドなら、前半2拍はピアニシモのままこらえておいて、

後半2拍で一気にフォルテシモまでもっていくほうが盛り上がりが明確で効果的です。

 ボレロ原曲でも前半はソロが続き、かなり抑えた音量です。

町田さんの編曲構成だと一気に後半に跳びますが、もし均一に大きくなるクレシェンドだったら

音量は【】の楽句番号に準じて1・2→12と極端に上がってしまいます。

実際は均一な音量比ではないので、1・2ていどのピアニシモから跳んで3か4くらい、

そこから10まで上がって終わる感覚でしょうか。

クレシェンド中抜きの編曲だと違和感がありますが、そこまでではなく程よくしっかり音量が上がります。

1回目の【0】から【2】まではコンパルソリー的な技術向上を感情を抑えて静かに示し、

2回目でAメロに戻ってきたら音量を上げて展開をはっきりさせ、表情や呼吸を強調した振付にすることで

【13】からスケートの快楽へ目覚める様子をわかりやすく見せていると思います。

 

ボレロの対称性についてもう少し。

Aメロの主題と応答は対称的、Aメロの主題とBメロの対主題も対称的。

しかしAメロ応答とBメロ対応答は必ずしも対称ではない。ズレがあります。

よって、Aメロ主題とBメロ対応答は、対偶ではありません。

正のAメロに対してBメロは反転するもの。とりわけBメロ対応答は転回です。

もしBメロも整然とした反復であればまったく同じAメロに戻り、

音楽は平面的な円として完結し、ひたすら無限ループすることになります。

しかしボレロのBメロは異変を起こして拡張するので、元のAメロからずれを起こして重なります。

非対称な歪みが音楽を広げていくのです。

このAメロの対称性とBメロの異質性は、町田さんの振付にも見ることができます。

 

  *  ∞  *  ∞  *  ∞  *  ∞  *

2018年4月28日、プリンスアイスワールドにて初見。

振付やトレースについては別にまとめます。

[21]Swan Lake:Siegfried and His Destiny

バレエの舞台をなぞった演劇的な作品という印象ですが、ステップがやたら華やかなのも特徴。

S席から見ていたので、何度もリンクいっぱいつかって踊っているのはよくわかりました。

なにしろ伝統的なステップの3様式を入れたのがこだわりのようなので、

トレースではそれを探してみました。

 

第1幕のサーキュラーステップ

内に外に入り込んだ軌道は、円形というより花のようです。

 

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第3幕のサーペンタインステップ

細かく追ったのですが、⑦あたりはよく見えませんでした。

⑧のダブルカウンターはわりと珍しいのかな、フリーレッグを雄弁につかっていて素敵です。

 

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第3幕、迫力のストレートラインステップ。白い光を裂くように、一気に駆ける姿の神々しいこと。

最後で跳んだまま姿が消えちゃう演出、さすがです。

 

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第2幕からもう1つ。3様式の軌跡にはっきり当てはまるわけではないのですが、

じゅうぶんステップシークエンスの長さがとれます。

 

 

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 こんなにたくさんステップ踏んで、リンク駆け巡ってるんですねぇ。

技術と体力に感心し、恐れ入るばかりです。

 

  *  ∞  *  ∞  *  ∞  *  ∞  *

2017年10月7日、カーニバルオンアイスにて初見。

披露するまで作品の内容を明かさない主義のひとなのに

パンフレットのインタビューにあっさり白鳥の湖と記載されていて、当惑しました。

この作品については、事前に読んでおいてほしかったのでしょうか。

私はこの超有名作品をぼんやりとしか知らなかったのですが、

振付や舞台設定に演劇要素が強く、短い時間に凝縮された展開なので、

あらすじをわかっていたほうが初見でより楽しめたかもしれません。

 

現地で見たときは第1幕と第2幕のあいだが少し長いように感じて

一人舞台だし、また長い作品だったら小休憩しなきゃね、なんて思ったのですが

放送を見るとアナウンサーにより次の幕の状況説明が入るので、

そのための時間を意識的にとっていたのかもしれません。

アナウンサーの実況や感想ではなく、台本として用意したものを語ってもらったようですし

どうせなら現地でも流してほしかったくらいです。

 

広い広いさいたまスーパーアリーナの、S席から見下ろしての鑑賞でしたが、

観客の後ろ姿がつらなってまるで木々の影のようで、建物の構造を楽しめる舞台になっていました。

群舞を俯瞰で見るのは好きなのですが、たまアリほど大きい会場になってしまうと

高いところからソロを見るのはちょっと物足りないです。

でも、スワンレイクは、箱庭で繰り広げられている物語を見ているような独特な感覚が生まれて、

今までにない面白さでした。

暗い森のなかに浮かび上がる広大な宮殿、そのなかで踊る王子はなんとも儚い存在で、

女王に逆らえず、悪魔の罠にはまり、(・・・といったストーリーは実はよくわかっていなかったのですが)

見ているだけでも、王子の孤独と小ささが強調されて伝わりました。

そして、第2幕になったとたん宮殿の柱として屹立した白い光も、

第3幕の、客席を照らして悪魔に見立てた赤い照明も、一瞬で舞台が激変する大胆な仕掛け。

アイスショーでこんなことできるのか!とびっくりしました。

あの会場で、意思疎通できるスタッフが揃ってこその作品なのでしょうけれど、

一度きりにするのはもったいない演出でした。

[20]Don Quixote Gala 2017:Basil’s Glory

 若者らしさと歓喜が弾ける、快活な作品。

3幕構成のなかで、じわじわと好きなのが第2幕「夢見るバジル」。

やわらかな旋律にあわせた、優雅なコレオに見とれてしまいます。

 

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トレースしてみたのは幕のはじめから、対面に到達するまで。

ストレートラインのステップを思いきり蛇行させ、渦を散らしたような優雅な軌道になっていました。

曲線を楽しみたいので、技の名称のテキストは入れずに、回転方向の矢印だけ載せています。

 

  *  ∞  *  ∞  *  ∞  *  ∞  * 

2017年4月29日、プリンスアイスワールド横浜公演にて初見。

町田さん作品はいつのまにか悲恋3部作だったりして、悲劇好きで内向的なイメージになっていたので、

そこに来た 笑顔いっぱいで明るいこの作品は、ぱぁっと開けたようなまぶしさがあります。

 

自作振付のショー作品になってから、

ターンアウトの動作やフリーレッグの使い方のていねいさに見とれることが増えました。

もともと指先まで行き届いた美しさには定評がありましたが、それに加えて

四肢の使い方に芯があるというか、弾性のあるコントロールができているというか。

バレエレッスンの賜物なのでしょうね。

時間制限のある競技と違って、ひとつの動作にたっぷり余韻をつけられるのも、

優美な動きを印象づけている理由の一つかと思います。

このコレオは特にその良さをしっとりと味わえます。

[19]Ave Maria

トランペットのロングトーンを活かしたリンク大横断アラベスクが見どころ。

ジャンプを跳ばないという、主張の強さが横たわる作品でもあります。

そのせいか、スケーティングや音楽との調和を意識して見てしまいます。

トレースを描いてみたのはこの作品からだったと思います。

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ABCは音名です。耳コピ譜はあえて小節線を消していますよ。

わりと短い曲なので1枚に収めましたが、3つに分けて作ってあります。

描画ソフトを初めて使ったのですが、おかげでレイヤーの便利さが大変よくわかりました。

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*  ∞  *  ∞  *  ∞  *  ∞  * 

2016年10月1日、ジャパンオープンのゲストとして一回限りの公演。

新作への期待と緊張に満ちた、独特で異様な雰囲気のなか。

音楽が聴こえてきてもなかなか姿を現さず、出てきたと思ったら音源が拍手つきという

厳かなのか調子のってるのかわからない、たいそう勿体つけた登場っぷりで 

会場がザワザワと笑いに包まれた衝撃の作品。

今 思い出しても、たまアリに充満したどよめきと、空気の揺れが蘇ってきます。

プリンスアイスワールドのオープニングでお披露目してきた黒い透け透け衣裳を、

まさかアヴェマリアで使うなんて。まったく予想外の組み合わせでした。

 

*  ∞  *  ∞  *  ∞  *  ∞  * 

このプログラムで最も印象的な、トランペットのロングトーンにあわせたリンク大横断について。

トレース3枚目(紺ラインの図)、中央右から左へのA音で伸びた直線がそれです。

バレエでいうアラベスクのポーズをとったままリンクの端から端まで一直線に進むのですが、

ポーズ(静止姿勢)のまま動くという、スケートでこそ実施できる技となっています。

 

誤解されているのをよく見ますが、このポーズは「スパイラル」ではありません。

スパイラルという技の特徴は

・滑走脚ではないほうの脚を、腰より高く上げる(脚をあげるのは身体の前でも後ろでも横でもよい)

・エッジにのって円弧を描いて滑る

というものです。

美しいスパイラルは、身体がしっかり伸び、勢いがあり、軌跡は内巻きの螺旋を描いていきます。

フィギュアスケートの軌跡は円が基本であり、スパイラルはその華と言えるような技です。

 アヴェマリアのスパイラルは上のトレース2枚目(水色ラインの図)、右下にあるC音から助走が始まります。

中央をつっきってチェンジエッジしたG音から、左上方向をまわっているのが、左アウトエッジのスパイラルです。

 

ですが、このプログラム最大の見せ場でおこなっているのはスパイラルではないのです。

フリーレッグは美しく伸びていますが、腰の高さまでは上げられていません。そして、直進するのです。

音楽にあわせてスピードを抑制し、エッジにのってカーブを切るのではなくスーッと慣性で進む。

勢いのある円ではなく、あえての、静止姿勢による直線表現。

 

ここのトランペットはアタックからまっすぐ抜けるように吹いています。

ビブラートをきかせるでも強弱をつけるでもなくシンプルに伸ばしたロングトーンです。

ひと蹴りでその姿勢のまま直進するというのは、音のイメージをストレートに表現したものなのでしょう。

ですが、シングル種目では目玉となっているジャンプを排除したプログラムで見せ場としてもってきたのが、

フィギュアスケートのイメージに反発するような技、そしてフィギュアスケートでしかできない技だと考えると、音楽表現だけではない意図を感じます。

競技ルールで評価されるものを排しながら、そこに技術があり美があることを自信と誇りをもって見せつけてきた。

斬新で、なんとも野心的。拍手喝采せずにいられないプログラムです。